「Destination Workplace at LION」イベントレポート 前編
はじめに
ヴィトラは、オフィスを社員自らが行きたくなるデスティネーション(目的地)へと進化させることで、企業や社員の成長を支え、豊かな働き方を育むことを目指しています。2025年は、新しいワークプレイスの可能性を探る取り組みの一環として、法人のお客様を対象に、先進的な事例を訪れながら、これからの働く場について考える機会を設けています。
11月12日(水)、2023年に完成したライオン株式会社の新本社にて、同社 総務部長 兼 ベストオフィス構築グループ マネージャー 西本博昭氏、インテリアデザインを手掛けた株式会社ブルック 小川暢人氏、株式会社インターオフィス 米倉則明氏、そしてヴィトラ CSO(チーフセールスオフィサー)ローマン・エアハルト氏を迎え、ワークプレイスをテーマにしたトークイベントを開催しました。
その模様を、前編・後編に分けてお届けします。本レポート前編では、ローマン氏による講演「ワークスペースからデスティネーションへ - サードプレイスの役割とは」の内容を中心にご紹介します。
当日の流れ
トークイベントはローマン氏による基調講演からスタート。続いて、西本氏、小川氏。米倉氏の3名が、新本社プロジェクトの背景、デザインプロセス、そして実際の活用状況について、それぞれの視点から共有しました。ライオンの皆さまのご協力により、オフィス見学ツアーも実施し、「ライオンらしさ」を体現したワークプレイスを実際に体感していただきました。
ワークスペースからデスティネーションへ - サードプレイスの役割とは
ヴィトラ CSO ローマン・エアハルト氏
ローマン氏の講演では、これからのワークプレイスに求められる視点として第3の居場所としての「サードプレイス」の重要性が語られました。
ヴィトラの背景と「シチズン オフィス」
ローマン氏は冒頭で、ヴィトラが3世代にわたりビジネス・文化・環境へと領域を広げてきた背景に触れつつ、同社が働く場について語る理由を紹介しました。1950年の創業以来、ヴィトラは家族経営のもと発展を続け、初代はビジネスの基盤を築き、2代目はヴィトラ キャンパスやヴィトラ デザイン ミュージアムを通じて文化的活動を拡張しました。現CEO ノラ・フェルバウムを中心とする3代目は、持続可能性と長く使い続けられる製品づくりを企業の核に据え、次の世代へとつなぐ環境への取り組みを強化しています。
ジェームズ・アーヴィンによる「シチズン オフィス」のダイアグラム(1993年)
ローマン氏はまず、ヴィトラがなぜ「働く場」について語るのか、その背景を紹介しました。1993年にヴィトラデザインミュージアムで開催された展覧会「シチズン オフィス」では、未来のワークプレイスの思想が初めて提示され、その考えを可視化したダイアグラムが発表されました。ここでは、オフィスワーカーをシチズン(市民)と捉え、街で暮らすように人が行き交い、交流が生まれるオフィスの在り方が探究されました。この思想は現在もヴィトラキャンパス内に体現されており、社員が実際に働いています。
変化する働き方と第三の居場所としてのサードプレイス
Hair Salon, 1952/Cafe in London(イベント当日のスライドより)
ローマン氏は、現在欧米で進むオフィス環境の変化として、いくつかの傾向を紹介しました。まず、オフィス面積が縮小傾向にあり、限られたスペースに対応する柔軟性が求められていること。また、自宅とオフィスで働く最適なバランスを探る動きが強まり、サステイナビリティは議論段階から実行段階へと移行しつつある点にも触れました。一方で、若い世代の多くが起きている時間の大半をスクリーンの前で過ごしているという調査結果を示し、人と直接会う時間が減っていることを課題として取り上げています。そこで鍵となるのが、第三の居場所を意味するサードプレイスという考え方です。
第一の居場所としての自宅、第二の居場所としての職場や学校、そして第三の居場所。女性が集うヘアサロンやカフェ、地域のクラブ活動、ロンドンのカフェ文化など、国や文化、時代が異なってもサードプレイスは多様な形で存在してきました。そこに共通するのは、自発的に足を運び、人との対話を通じて関係性が育まれる場所であるという点です。
サードプレイスをワークプレイスへ
ヴィトラ本社に完成した「クラブ オフィス」
都市計画の分野では、商業・住宅・オフィス・レジャーといった機能を用途ごとに分けて配置するのではなく、街の中に多様な機能を混在させ、人が自然に交わり関係性が生まれる場所をつくる動きが広がっています。
ヴィトラは、この考え方を取り入れ、オフィスを行きたくなる場所へと進化させていくことを目指しています。その代表例として紹介されたのが、ヴィトラ本社に完成した「クラブ オフィス」です。コーヒーやフルーツが並ぶオープンなラウンジ、多様な働き方に応える設え、偶発的な会話を促す仕掛けなど、居心地の良さを備えた空間として機能しています。
「クラブ オフィス」については こちら
人間のニーズから空間を考える

HUMAN NEEDS(イベント当日のスライドより)
ローマン氏は、空間を設計するうえで人はなぜその行動を取るのかを理解することの重要性を強調し、その背景にある 77のニーズ を整理したフレームワーク「The Power of Why」を紹介しました。特にワークプレイスで重要となる4つのニーズとして、心身の健康・学び・帰属意識・楽しさを挙げ、それぞれが働く体験にどのような影響を与えるのかを説明しました。
現代の企業では、設備などの有形資産よりも、知識・関係性・文化・コンテンツといった無形資産の価値が高まりつつあります。こうした時代において、人が集まり、対話が生まれ、帰属意識が育まれる場は、これまで以上に重要な意味を持ちます。さらに今後、AIが多くの業務を代替していく可能性を見据え、ローマン氏は「人がなぜ集まるのか、その理由をデザインすること」こそが、これからのオフィスの価値になると語りました。締めくくりとして、サードプレイスの役割や人間の働き方の変化、そしてオフィスの意味そのものを問い直すことの重要性を投げかけました。
→ 後編はこちら
Photos:
1: Tomooki Kengaku
2: Kentaro Kakizaki