コレクション: The Panton Chair that Inspires
音楽家・江﨑文武が触れるパントンチェア
デンマーク人デザイナー、ヴァーナー・パントンによるデザインで、1967年に量産化されたパントンチェア。世界初のプラスチックによる一体成形のキャンチレバー型を実現し、手ごろな価格での普及を可能にしました。国際的なデザイン賞を数多く受賞しており、まさに20世紀デザインのアイコンに相応しい一脚です。誕生から半世紀以上の時を経てもなお、人々の暮らしのさまざまなシーンを彩るパントンチェアに、この秋、限定カラーのアイボリーが登場。本品を早速暮らしに取り入れた音楽家の江﨑文武さんを訪れ、彼の視点で捉えたパントンチェアの魅力、そして美しいデザインと共にする暮らしについてうかがいました。

パントンチェアで体感する、美しいデザイン
ピアニストとしてソロ活動や映画音楽の制作、4人組のソウルバンド、WONK(ウォンク)のキーボディストなど、多岐にわたり活動の幅を広げる音楽家の江﨑文武さん。音楽が活動の主軸でありながらも、デザインやファッションへの造詣も深く、領域にかかわらず彼の美意識には興味深い視点があります。そんな彼に、パントンチェアの印象をたずねました。
「パントンチェアは、公共施設などの広い空間やカフェのテラス席に導入されているというイメージがありました。初めて存在を認識したのは、中学生の頃、おそらくパリで見かけた時だったと思います。『すごい形だな』というのが最初の印象でしたね」
そう言って昔の記憶を辿る江﨑さん。10代の頃からパントンチェアのそのユニークな佇まいに一目を置いてはいたものの、自分の生活に取り入れたのは今回が初めて。
「もっと硬いと思っていたのですが、実際に座ってみると意外と身体がすっぽり包まれる感じがあって、見た目よりもすごく座り心地がよいです。この限定色のアイボリーは、やさしい色味でどこにでも合わせやすいですよね。実は、我が家のダイニングでは初めての背もたれ付きの椅子なんです。当たり前ですが、ゆったりできて気に入っています(笑)。いまは、自宅のダイニングで使用していて、ご飯を食べたりお酒を飲んだり、PCを開いて仕事をすることもあります」
そして、実際に座った印象だけでなく、パントンチェアのデザインにも意外な発見があり、さらに椅子との距離が近づいたようです。
「これまでの自分の趣味としては、割と木製の家具が多く、パントンチェアのようなデザインはなかなか選ばなかったのですが、今回こうして取り入れてみたら、意外とすんなり馴染んだことに驚きました。やはり美しくデザインされているものは、年代やジャンルが違っても、お互いの良さを引き出し合うんだなと。それってすごいことだと思うんです」
仕事とくつろぎが共存する、スペースづくり
この一脚のパントンチェアの登場で、今までのインテリアの見え方も変わってきたのだそう。
「このランプも、今までは東洋的な提灯のように見えていたのですが、パントンチェアを置いた途端、UFOぽく見えてきたりして(笑)。時計やダイニングテーブルなど、これまで円形のものは置いていたものの、あまり意識していなかった部屋中のアール(曲線)に目が向くようになったんです。そういった変化が生まれたことも面白いですし、この椅子の存在感を強く感じています」
現在の部屋で暮らし始めて半年ほど。ここで使用している家具のほとんどは、江﨑さんが一人暮らしの時から使っているものなのだそう。リビングには北欧家具の名作やヴィンテージソファが置かれ、その一角にピアノや音楽制作のための機材も置かれています。居住スペースとワークスペースが同居したインテリアや空間の使い方にも、彼ならではのこだわりがありました。
「基本的には、昔の北欧デザインの家具が好きなのですが、そればかりで固めてしまうと、自分の職業上で使うものとの相性があまりよくないなと感じていて。たとえば、スピーカーやパソコン、シンセサイザーやマイクなど、どうしてもちょっと無骨なものが表に出てしまうので、インテリアも、もう少し工業製品ぽいものを混ぜるほうがいいのではないかと思って、そのあたりを意識しながら部屋に置くものを選ぶようになりました。でもワークスペースと分ける発想はあまりないですね。福岡の実家に住んでいる時から、自分の部屋はなくてずっとリビングにいたので、そのスタイルに慣れてしまっているんですよね。あと、ダイニングのパントンチェアに座って、ここから仕事場を眺めるのがすごく好きなんです 」
そして、ものを選ぶ時は、インテリアのバランスや直感とともに、その背景にあるストーリーを大事にしています。 「たとえば、剣持勇と倉俣史朗、ジャスパー・モリソンとコンスタンチン・グルチッチのように、デザインの裏にある師弟関係を思うなど、自分なりに紡いだストーリーを含めて買い物をしていることが多いかもしれないです。家具だけでなくデザイン全般になりますが、最近気になるのは、Stockholm Design LabやTeenage Engineeringなど、北欧のデザインチーム。ディーター・ラムスやバウハウスなどのように機能美を追求するいわゆるドイツ的なデザインと、温かさや遊びごころが込められた北欧的なデザインが混ざったような、彼らが発信するデザインのトレンドを追いたいなと思っています」と、現在気になるデザインシーンについても教えてくれました。PCや音楽の機材、洋服などはドイツデザインに見る機能美を、インテリアには北欧家具に見る柔らかい雰囲気を取り入れるという、彼の感性と重なります。

江﨑さんが使用しているTeenage Engineeringのシンセサイザー
デザインが与えてくれる、創作に向かう活力
江﨑さんとの会話の端々に感じられる、美しいデザインやそれを手がけたデザイナーを尊敬する心。彼にとって、デザインは自身にどんな影響を与えるものなのでしょうか。
「やる気になるもの。“頑張ろう”というスイッチを押してくれるものですね。インスピレーションかというと、僕にとっては写真集やイラストレーションから得ることが多いので、それとは少し違います。音楽も、映像も、プロダクトも、ものづくりに携わっている人って、広く言うと基本的には心地よさを思考していると思うんです。このパントンチェアも、手でちょっと触れるだけでも心地がいい。この考え抜かれたアールや、成形時の処理の仕方など、使う人が一番気持ちいい状態を生み出そうとしてきた人たちのいろんなエネルギーを感じて、創作へのやる気を出してくれるのが、デザインが僕に与えてくれる一番の影響だと思っています」
制作プロセスもアウトプットも違うものでありながら、ものづくりに向かう同じ「作り手」の視点から捉える音楽と家具。江﨑さんの視点を通してパントンチェアのデザイン美学を改めて感じ、そして彼の次の創作へも期待が高まります。
江﨑 文武 / Ayatake Ezaki
音楽家。1992年 福岡市生まれ。映画『秒速5センチメートル(実写版)』『#真相をお話しします』『ホムンクルス』などの音楽を手がけるほか、WONKのキーボーディストとしても活動。King Gnu、Vaundy、米津玄師らの作品にレコーディングで参加。NHK FM「江﨑文武のBorderless Music Dig!!」のパーソナリティを務めるほか、文學界「音のとびらを開けて」、西日本新聞「音聞」にて連載を執筆中。https://www.ayatake.co/
Images: Kohei Yamamoto
Edit & text: Mana Soda
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