コレクション: Mynt with Kii
Kii 新井里志・中富慶 「ミント」のある暮らし
2025年4月に発売された、エルワン・ブルレックのデザインによるヴィトラの新作チェア「ミント」。動きながら座るという新たな発想と、エレガントなデザインを携えたこの椅子は、オフィスやダイニングなど、場所を問わずさまざまなスペースに調和します。今回は、いち早く「ミント」を導入した、建築デザインユニット、Kii(キイ)の新井里志さんと中富慶さんの住まい兼仕事場を訪問。実際の座り心地とともに、建築家である2人の視点からとらえる家具や暮らしについてうかがいました。
慎重派の2人が、「直感的」に選んだ椅子
Kiiの2人が「ミント」に出会ったのは、本製品のローンチを記念して開催したイベントでした。来日したデザイナーのエルワン・ブルレックによるプレゼンテーションがおこなわれ、その時に触れた彼のデザインフィロソフィに共感を得たと言います。



新井「エルワンが、『人は皆、習慣も生き方も、働き方も身体のあり方も一人ひとり違っているけれど、この椅子はすべての人を歓迎するので、ありのままの自分で座ってください』ということを言っていて、そのすべての人にウェルカムな姿勢が、とてもしっくりきたんです」
中富「私たちはいつも、そこにいる人たちが皆、
新井「とても素敵なイベントだったね、と実際にそこでミントに座ってみたら、座り心地がとてもよくてその場で即決しました。普段、ものをノリや直感で選ぶということがほとんどなく、欲しいものがあっても腑に落ちるまでは買いません。でも、あの日体験したミントは、他の椅子と違って、直感的にすごくいいなって思えたんです。色も、その場に並んでいた2脚をそのまま選びました(笑)。一応他の種類も現地で確認したのですが、やはりこの2つが気に入ったんです」
中富「見た目もこのスペースに合いそうで、いいなと思いました」
自由な動きを受け止める機能性と、美しいたたずまい
自分たちでも驚くほど直感的に即決し、Kiiの住まい兼仕事場にやってきた「ミント」。現在ここでは、ワークチェアとして使用されています。自由な姿勢や動きを受け止めてくれる快適さと、そのたたずまいの美しさを、2人は改めて実感している様子です。

新井「これまでは15年くらい、アルミナムチェアをワークチェアとして使っていて、そのときの感覚で、ワークチェアはハイバックでちゃんと身体を預けられる椅子というイメージを持っていました。ミントはハイバックではないし、選んだ素材も木なので、ちょっと疲れやすかったりするのかなと思ってはいたのですが、今のところその感覚もないですね。むしろとても座りやすいです」
中富「そうなんです。ミントは背もたれが低いのに、身体を預けられて自由な動きができるところがすごい! 座ってみてびっくりしました。ちゃんと身体が支えられていて肩が開く。ピラティスをしているみたい」
新井「僕は本当に座り方がだらしなくて……(笑)。手を動かさないときは、ずっとこんな感じ(背中を完全に背もたれに預けて足をデスクの上に投げ出しながら)です。背もたれが低いのにリラックスできて、このまま寝ちゃうこともできそう。このデザインで、どんな体勢も受け止めてくれるってすごい。世の中にあるワークチェアと呼ばれるものって、サイズや機能など特有のフォーマットがある感じがするし、『これはワークチェアなので、ワークデスクに置いてください』って押し付けられるようなデザインのものはここには合わないなと思って置きたくなかった。そういった意味でも、ミントのこのたたずまいは、美しいですよね」
人の動きや空気感を追求した場所づくり
都内のヴィンテージマンションをリノベーションして、この住まい兼仕事場に暮らし始めて3年が経ちました。ダイニングキッチン、その先に「ミント」を置いた作業デスク、そしてベッドルームまでがL字でシームレスにつながった大きなワンルーム。このスペースで生まれるさまざまな行動を歓迎する、彼らの自由で楽しげな感覚は、「ミント」のコンセプトにも通じるものがありそうです。
新井「この家をリノベーションのために解体した時、その状態がとても素晴らしかったんです。たくさんある窓から光が入って風が抜けていくのを、家のどこにいても感じられる場所にしたいなと思って、最大限仕切らずに作ってみたらこうなりました。そしてこの家では、『この場所でこれをする』というような、行動を決めたくなかったんです。たとえば、キッチンのカウンターを囲んで料理をしながら食事をして、天気がいいとお酒を飲みながらそのまま外のテラスに出る、というように家全体が食堂みたいになることもあれば、デスクワークをしながら、ダイニングテーブルでクライアントと打ち合わせをして、キッチンカウンターではモックアップを組み立てる、というように家全体がオフィスになることもある。そんな感じで、家全体をいかようにも自由に使える、僕たちらしい場所だと思っています」

Images of House: Masanori Kaneshita
自由に過ごすからこそ、タスクを決めつけるような家具はあまり選ばない。置いているものというと、この家のために作った造作家具もあれば、以前手がけた物件から引き下げたものなど、2人が言うに「寄せ集め」のものが多いことにも、Kiiらしい考え方がありました。
新井「いろんなものが普通にあっていい、という状態が好きだし、そういうものを受け入れられる場所を作りたいんです。ミントも、そんないろんなもののひとつになりそうだなと思って選んだのかもしれない。造作家具も多いですね。ベンチとしても収納としても使える、とか、ちょうどいい高さの板だからデスクとして使える、といったように、直感的に使いたくなる家具を作りました。最初に置き家具を選ぶという選択はあまりなくて、それよりも人の動きや作りたい空気感をイメージして、そこに適切な距離感や素材感をあわせていきました」
中富「そのうちソファを置いてもいいと思うし、家具は暮らしながら好きなものがだんだん集まっていけばいいかなって。それで最初はその下地を作ったという感じですね。直感でものは選ばないけれど、人の動きとか空気感という部分では、直感を大事にしていることに、改めて気づきました」
新井「建築とかインテリアといった、言葉の枠で考えていないのかもしれないですね。器(家)ができてから、そこに置くものという順番ではなく、すべてが同時進行なんです。 器も、家具も、花も、音楽も、風も、光も。そういうすべてのことをフラットに考えながら、場所を作っています」
自分らしさを大切にし、あらゆる人の直感的な行動に寄り添っていくKiiの場所づくりや暮らしへの考え方は、無駄を削ぎ落としたデザインで自由な動きを受け入れる「ミント」の存在感と重なるようにも感じられます。この椅子とはじまった2人の暮らしは、私たちにあたらしい家具への視点や楽しみ方を教えてくれました。
Kii
新井里志、中富慶からなる建築デザインユニット。 建築的な視点を軸に、建築・インテリアのデザインと設計、家具やプロダクトのデザイン、ショーウインドウディスプレイなど 自分たちがイメージする場所をつくるために必要なことのすべてをデザインしている。