コレクション: コルクの生産と特長について
地中海沿岸にある国々で数千年も前から使われてきた伝統的な素材、コルクが将来性のある素材として脚光を浴びています。自然素材ならではの風合いを活かした、ジャスパー・モリソンによるヴィトラの製品「コルクファミリー」や「コルク ボウル」などは、ポルトガルのファミリー企業Granorteのコルク材から作られています。
今回、Gronorteにてコルクの製品開発とイノベーションの責任者を務める、パウロ・ローシャにコルクの特徴とその可能性をうかがいました。
コルクは奇跡的な素材と言われていますね。撥水性、難燃性、軽量性、弾力性、安定性、無毒性、リサイクル性など、実に多くの特長が挙げられ、あまりにも素晴らしい素材とわかり大変驚きました。
こんなに多くの特長を持つ天然素材は、実はコルクの他に存在せず、まさに奇跡的な素材と言えます。ここポルトガルでは、幸運なことにコルクを生産する環境が整っています。コルクはコルク樫という木の樹皮から作られていて、原木を伐採せず、樹皮を一度採った後に再生した樹皮から再びコルクが採れるため、森林を守りながら生産し続けることができます。
しかし、コルク は無限に採れるわけではありません。いかにコルクを最大限に活かせるか、コルク産業に携わる人々にとって最大の課題であり、長年にわたって研究されてきました。その結果、採取されたコルク樫の樹皮のすべてが使われているというのは、決して過言ではなく、コルクに関わるあらゆる工程において、まったく無駄がありません。
コルクは無限に採れないとしても、収穫量を増やすことはできるのでしょうか?
その件については、コルク産業全体でさまざまな取り組みを行っています。例えば、コルク森林の大半は既にFSC認証を取得し、従来より面積当たりの木の本数を増やしたり、既存の木のメンテナンス方法を改善する試みを行ったり。その他にも、一般的には樹齢25年で最初のコルクが収穫できるところを20年に短縮するため、若木への水やり方法を研究したりしています。
樹皮の収穫は手作業で行っているのでしょうか?
はい、そうです。これまでに機械を使うことにも挑戦したのですが、今のところうまくいっていません。次の収穫のためにも、木を傷つけないように繊細な作業をする必要があり、長年の経験と熟練した技術が不可欠なのです。収穫後は、樹皮を数ヶ月間乾燥させ、その硬くなった樹皮を煮沸し、曲がった部分を平らにする工程を経て、弾力性のある丈夫なコルクシートが出来上がります。このシートをくり抜きコルク栓が作られます。
では、くり抜かれた後の残った材料はどうなるのですか?
この残った材料に、コルク栓を作るには厚みが足りなかったり品質が適さなかった材料や、収穫やコルクの製造工程で発生する残材を混ぜた後に、粉砕して粒状にします。このコルク粒を圧縮して形成し、テクニカルコルクと呼ばれる、断熱材や床材、家具用の材料など、さまざまな製品が生み出されます。また、スパークリングワイン用の弾力のあるコルク栓などに加工することも可能です。
ヴィトラのコルクスツールやコルクボウルなどの製品は、天然コルクの ブロックを削りだして作られていますが、このブロックも先程のコルク粒 からできているのでしょうか?
そうです。専門用語では凝集コルクといいます。コルク粒に結合剤と混ぜ、熱と圧力を加えて融合させてから成形したものです。結合剤には、ワインなどのコルク栓を製造する際にも使われる食品にも安全なポリウレタンをベースとした人口樹脂を使用しています。凝集コルクの成分はコルク 93%、結合剤7%です。
コルクスツールやコルクボウルの製品化にあたって、デザイナーのジャスパー・モリソンから、粒感のある粗い風合いがありながらも表面は滑らかな手触りであることを求められました。私たちはこの要望に応えるべく、不良品であったり、基準を満たしていなかったコルク栓の大きな粒を再利用することで、独特な味わい深い質感を実現しました。 私たちにとって新しいデザインを成功へと導くことが重要であり、自社で賄いきれないと判断した時には、他社からコルク材を仕入れることも あります。
凝集コルクのリサイクルは可能でしょうか?
はい、もちろんです。但し、凝集コルクをリサイクルする際には、品質の安定化を図るために一定割合の新しいコルクを混ぜる必要があります。実際、このリサイクル素材から断熱材やフローリングの下地材など、直接目に見えない場所に使われる材料に製品化されています。
コルクはどのように経年変化していくのでしょうか?
コルクは天然素材のため、木材と同じように経年変化が楽しめます。コルクの経年変化の特徴としては、段々と色が薄くなり樹皮と同じような色合いになっていくものの、質感や性能はほぼ変化が見られず、腐敗すること もありません。
地中海沿岸の国々ではコルクが文化として根付き、発展を遂げてきた長い歴史があります。あなた方にとって、コルクはどのような意味を持つ のでしょうか?
そうですね。私たちにとって、コルクは重要な社会的役割を持ち、古くからある文化として切っても切れない存在です。ここポルトガルの特定の地域だけでなくスペインや北アフリカにもしっかりと根付いていますし、コルクは将来性のある素材として期待もしています。
なぜ、コルクはこれほどまでに大きな社会的意味を持つのでしょう?
コルク樫は、ポルトガル南部など、資源が乏しい地域で育てられていることが多いです。この地域の土壌は乾燥しているため植物がなかなか生育できないのですが、コルク樫には理想的な環境です。そのため、コルクの生産が継続されることが重要で、地元の人々にとって大きな 収入源になっています。樹皮の収穫は、春の終わりから夏にかけて1年で最も暑い時期に行わなければなりませんが、収穫には熟練した技術が必要なため、1年分の収入を得ることができるのです。
現状では、コルク産業の大部分を占めるのはコルク栓の生産ですが今後、用途は広がっていくと思われますか?
もう何年も前のことですが、あるセミナーで聞いたことが今でも頭から離れません。「コルクの正しい使い道はまだ見つかっていません。コルクは唯一無二の素材であると同時に生産量も限られているため、いつしかポルトガルの『金』とみなされるようになるでしょう。」確かに、これまで何世紀にもわたってコルク産業はコルク栓の生産によって成り立ってきましたが、発展の兆しも見えてきています。
2、30年前は、コルク産業の 95%はコルク栓で、他のコルク製品が作られることはほとんどない状況でしたが、今やコルク栓生産は75%程度です。産業界や建設業界だけでなく、実にさまざまな選択肢が広がっている傾向があり、日本ではコルクを田んぼに利用するお客様もいるそうです。これからも、私たちの想像もつかないような使い道が多く生まれるでしょう。