Verner Panton: Form, Colour, Space

ヴィトラ  デザイン ミュージアム館長 マテオ・クリースへのインタビュー

2026年5月23日から2027年5月9日まで、ヴィトラキャンパス内の「ヴィトラ シャウデポ」にて、ヴィトラ デザイン ミュージアムのキュレーションによるヴァーナー・パントンの生誕100年を記念した回顧展「Verner Panton: Form, Colour, Space」を開催中です。そして今回、来日中の同ミュージアムの館長、マテオ・クリースへのインタビューが実現。本展のコンセプトや見どころをはじめ、彼が考える現代におけるミュージアムの役割、展示のあり方、そして日本の魅力についても語ってくれました。

本展の見どころとは?

本展の最大の特徴のひとつは、入念に構成された色のグラデーションで表現した空間デザインです。来場した方をできるだけ深く、色鮮やかなヴァーナー・パントンの世界へと誘いたいと考えたのです。同時に、パントンのインテリアの特徴的でもある、人を包み込むようなコンパクトな空間の実現も目指しました。展示会場は比較的オープンな空間であるため、容易なことではありませんでしたが、没入感を生み出すため、壁や造作物を用いてレイアウトを構成し、来場者がいくつもの空間を巡りながら、自然とパントンの世界へ深く入り込んでいけるような動線を設計しました。その実現には綿密な計画と多くの制作工程を要しましたが、その結果、まるで幻想的な風景の中を歩いているかのような、特別な体験を生み出せたと感じています。

来場者はまずオレンジの空間から入り、そこから赤、ピンク、紫、青へ、というヴァーナー・パントンを象徴する鮮やかな色の世界を歩いて行くことになります。そしてその先には、開放的なインスタレーション「ファンタジー ランドスケープ」が広がるのです。これは1970年に制作された、エディション1/8の伝説的な作品を、実際に中へ入り込んで体験できる空間として再構築したものです。

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Design by Verner Panton
© Verner Panton Design AG
Photo: Vitra Design Museum / Franz Wamhof



そしてもうひとつが、ヴィトラ  デザイン ミュージアムが所存する、ヴァーナー・パントンのアーカイブを数多く公開していることです。2000年代初頭以来、当館はパントン本人から託された約40,000点もの資料を保管していて、そのなかには彼のプロジェクトを記録した図面やスケッチが20,000点ほどあります。そんな貴重なコレクションの一部を会場の随所に展示しています。来場者はそれらをじっくり鑑賞しながら、パントンの制作プロセスやアイデアの変遷を深く理解することができます。また、本展のための特別な「パントン プレイリスト」もつくりました。彼は音響システムを組み込んだインテリアも数多く手がけており、空間における多感覚的な体験に関心を寄せていました。本展も観るだけではなく、耳を傾けていただくこともおすすめします。アーカイブとプレイリストの音楽が重なり、パントンの創造的なビジョンとデザインに対する総合的なアプローチを感じられると思います。

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© Verner Panton Design AG
Photo: Vitra Design Museum / Franz Wamhof

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© Verner Panton Design AG P
hoto: Vitra Design Museum / Franz Wamhof


作品「ファンタジー ランドスケープ」には、思い入れがあるようですね。

この「ファンタジー ランドスケープ」というタイトルは、パントンがこの作品をデザインした1970年当時、とても秀逸だったと思います。本人がつけたタイトルかどうかは定かではないのですが、インスタレーションの本質を見事に捉えた、素晴らしいタイトルです。

一見すると、このタイトルは「想像の世界から生まれた風景」を意味しているように思えます。しかし、私はそこにもうひとつの解釈があると考えています。私たちの想像力そのものもまた、記憶や感情、そしてさまざまな思考によって形づくられた、ひとつの「風景」と捉えることができるのではないでしょうか。そう考えると、このタイトルが指し示すのは、目の前に広がる物理的な空間だけではありません。私たち一人ひとりの内側にある心の風景もまた、「 ファンタジー ランドスケープ」の一部なのです。

この作品の魅力は、その2つの風景の境界を曖昧にしているところにあります。内なる世界と外の世界は明確に区切られることなく、自然に溶け合い、ひとつの風景を形づくっていきます。私たちが思い描くものは現実とは切り離された存在ではなく、やがて現実の一部となる可能性を秘めていることを示唆しています。私にとって、このインスタレーションは、美しいメタファーでもあるのです。

そうした意味で、「 ファンタジー ランドスケープ」は、創造する自由を体現する作品です。既成概念や他者の期待にとらわれることなく、その先にある可能性へと想像を広げていくことを、私たちにそっと促しているのです。

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Photo: Vitra Design Museum / Franz Wamhof

「Verner Panton: Form, Colour, Space」というタイトルに込めた想いとは?

「形・色・空間」という意味を持つこのタイトルには、ヴァーナー・パントンの仕事の本質を表現したいという想いがあります。形、色、空間という3つの要素を結びつけることで、彼のデザインへのアプローチを特徴づけた核心的なテーマを凝縮しています。彼は単に大胆な色を空間に取り入れるのではなく、「色は空間の中でどのような役割を果たすのか」「色は人が空間をどのように知覚し、体験することに影響を与えるのか」といった本質的な問いを探求し続けた人物です。そして、建築やインテリアを構成するあらゆる要素を改めて見つめ直し、それらをゼロから問い直す姿勢でデザインに向き合っていました。そのアプローチは、当時としては非常に革新的であり、同時に大胆な挑戦でもありました。

1970年に彼のインスタレーションが初めて発表されたとき、人々はそれまで目にしたことのない世界に出会い、大きな衝撃を受けました。そこには、インテリアデザインに対する既成概念を覆し、空間とその体験をデザインする新たな可能性が示されていたのです。本展のタイトルには、パントンの仕事を象徴する、実験精神、豊かな想像力、そして新たな発見への探究心を表現したいという思いを込めました。

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© Verner Panton Design AG
Photo: Vitra Design Museum / Franz Wamhof

本展をはじめ、現在、そしてこれからのミュージアムの役割とは?

近年、美術館や博物館では没入型の展覧会が増えており、私たち自身もマルチチャンネルの映像投影やスクリーンなど、デジタル技術を積極的に活用しています。

一方で、私たちが伝えたい大切なことがあります。それは、本当の意味での「没入」は、物理的な空間があってこそ生まれるということです。たとえば、スマートフォンだけでは、真に没入感のある体験は得られません。個人的にも、VRヘッドセットに大きく依存した展覧会にはあまり関心がありません。そうした展示では、主役が作品ではなくテクノロジーになってしまいがちです。しかし、それは人々が美術館を訪れる本来の目的ではないと考えています。私たちにとって没入とは、空間そのものが持つ力を最大限に引き出すことです。美術館は、作品が実際に存在し、来場者がときにはそれらと直接向き合い、人々と体験を共有できる、現実の場所です。作品と人が同じ場を共有することで生まれる、身体性を伴った体験や他者との共有こそが、美術館ならではの価値だと私は考えています。デジタル技術は、その体験をより豊かにすることはできます。しかし、それに取って代わることはできません。

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Photo: Vitra Design Museum / Franz Wamhof

本展を例に挙げてみますが、会場では、量産化される以前に制作された「パントン チェア」の試作モデルを展示しています。興味深いことに、多くの来場者が完成品ではなく、この試作モデルの前で足を止めるのです。

これは、パントンがデンマークで制作し、その後ヴィトラへと持ち込まれた初期のプロトタイプのひとつです。当時、このアイデアが実現できると考えていた人はほとんどいませんでした。

いま見ると、この試作モデルはまだ粗削りで、完成品のような洗練した美しさは備えていません。しかし、まさにその未完成さこそが、この作品の大きな魅力なのです。

デザインは、決して一直線に完成へとたどり着くものではありません。ひとつのアイデアが製品になるまでには、数え切れない試行錯誤の積み重ねがあります。この試作モデルは、そのプロセスを目に見えるかたちで伝えています。十分な強度が備わっておらず、破損や摩耗の痕跡も残っています。それでも人々がそこに惹かれるのは、そうした痕跡の中に、完成へと至るまでの挑戦や実験、そして数々の決断の軌跡を見ることができるからです。

人々が知りたいのは、完成したプロダクトだけではありません。それがどのように生まれたのか、その背景にある物語や創造のプロセスにも強く惹かれるのです。多くの来場者にとって、その道のりは、完成品そのもの以上に興味深いものなのかもしれません。

そして、それを可能にしているのが、歴史を刻んできたオリジナルの実物資料の存在です。物語はさまざまな方法で伝えることができますが、本物の資料だからこそ伝えられることがあります。人は本来、物語に惹かれる存在であり、オリジナルの資料には、その物語を雄弁に語る力があります。

作品と物語、そして来場者を結びつけること。それこそが、美術館や博物館に求められる最も重要な役割のひとつだと考えています。

日本のデザインや建築から影響を受けたことはありますか?

もちろんです。私は日本のデザインや建築が大好きで、東京を訪れるたびに、まるでデザインと建築の小さな楽園にたどり着いたような気持ちになります。デザイン文化がこれほどまでに日常の暮らしに深く根づいている場所は、世界でもそう多くありません。

私が特に感銘を受けるのは、細部にまで行き届いた配慮です。街を歩いているだけで、ものが丁寧に手入れされ、整えられ、一つひとつがよく考え抜かれていることが伝わってきます。私にとって、デザインとは究極的には細部に宿るもの。そして、その感覚は日本のあらゆる場所に息づいていると感じています。

初めて日本を訪れたのは2001年でした。ヴィトラ デザイン ミュージアムで三宅一生展を開催したことがきっかけです。そのときは三宅さん本人が東京を案内してくださり、今でも忘れられない体験となっています。

それ以来、日本のデザイン文化は私にとって変わることのないインスピレーションの源です。妹島和世さんと西沢立衛さんによるSANAA、丹下健三さん、黒川紀章さん、そしてメタボリズム運動からも大きな影響を受けてきました。

最近ベルリン近郊に自宅を建てたのですが、振り返ってみると、日本の建築や空間に対する考え方から多くを学び、それらを自然と取り入れていたことに気づきます。そうした発想の数々が本展にも息づいており、日本のデザインが私の空間や建築に対する考え方に、いかに深く、そして長く影響を与えてきたのかを改めて実感しています。

日本でお気に入りの場所はありますか?

日本で過ごす時間はいつもそれほど長くないので、よく知っているとは言えませんが、それでも、東京を訪れるたびに楽しみにしているのは、皇居周辺を散策する時間です。

日本のデザイン文化が持つ細部への徹底したこだわりに魅了されてきましたが、それと同じくらい、日本の庭園文化にも強く惹かれています。自然をどのように捉え、手入れをし、人と自然との関係をどのように形づくっているのか。その考え方には、日本ならではの豊かさがあると感じます。

私が特に魅力を感じるのは、自然と都市が見事に共存していることです。東京は世界有数の大都市でありながら、自然は決して遠い存在ではありません。もちろん、その多くは人の手によって丁寧に育まれ、管理されたものですが、都市の中心部であっても、自然を感じ、愛でることのできる場所が数多くあります。

人と建築、そして自然との関係を繊細に捉え、その調和を大切にする姿勢。それこそが、私が日本に深く魅力を感じる理由のひとつです。

Mateo Kries マテオ・クリース

2011年よりヴィトラ デザイン ミュージアムの館長を務める。著書『Total Design』(2010年)では、デザインの商業化が進む現代を考察。また、家具デザイン史を網羅した決定版ともいえる『Atlas of Furniture Design』(2019年)の共同編集を手がけるなど、デザイン研究・キュレーションの第一線で活躍する。

展覧会情報

展覧会タイトル: Verner Panton: Form, Colour, Space
会期: 2026年5月23日 - 2027年5月9日
キュレーター: Susanne Graner、Nina Steinmüller

https://www.design-museum.de/en/exhibitions/detailpages/verner-panton-form-colour-space.html