「リビング オフィス 」ロナン&エルワン・ブルレック インタビュー

「リビングオフィス」とは何か?2000年代初頭、 ロナン&エルワン・ブルレック は、ヴィトラと協業し新たなオフィスの在り方を探求する中、この問いを自らに投げ続け、この20年間で数々の革新的なオフィス家具を開発してきました。代表例として、オープンなスペースの中でプライバシーなスペースを作り出す、高い背もたれのあるソファ「アルコーヴ」や、自由に空間を構成することができるモジュラー式のパーテーション「ワークベイズ」が挙げられます。またオフィステーブルシステム「ジョイン」の他、上下昇降可能な「タイド」、さらに新作ソファ「アバロン」も発表されました。特に、彼らが「ただの大きなテーブル」と呼ぶジョインは、コミューナルワークの中心的な役割を担う製品です。自然なコミュニケーションを促しチームワークを高める大きなプラットフォームとして機能します。

エルワン・ブルレック:子供の頃、家族で暮らした祖父母の農家には大きな木製のテーブルがキッチンにあり、その周りですべてのことが起こっていました。誰かが座って新聞を読んでいる、テーブルを挟んで向かいにはジャガイモの皮をむいている人が、その反対側には時計を直している人がいて、さらにその隣では帳簿に向かって経理仕事している誰かが、そして子供たちはテーブル上でトランプをしている。ランチを食べてくつろいでいる時間には、みんなでしばしおしゃべりをして、テーブル上がすっかり片付いたら、また各々の用事に取り掛かる。それが祖父母の家での日常でした。

その思い出がきっかけで、「大人数が一日中ともに働く空間とは?」を問うのではなく、「人々がどのように空間を共有しともに過ごすのか?」を考えるようになったのですね。

EB:はい。私たちは、必ずしも人々が常に一緒に仕事をする必要はないと考え、ただ集い、隣り合って共有できるテーブルが必要だと考えました。テーブルは特定の誰かのためのものではなく、すべての人のためのものです。私たちは権威を振りかざすような重厚感のあるテーブルと対極にある、オフィスでのさまざまな役割や必要性を解決する、包括的なテーブルを目指しました。オフィスで和気あいあいとした雰囲気で仕事ができると、毎日が楽しく過ごせますよね。

2002年に開発した「ジョイン」は、大きくて広い天板のシンプルなデザインかつ、さまざまなサイズにカスタム可能な構造、その「何もない」簡潔さが最大の魅力でした。複数のデスクがレイアウトされていた従来のオフィス空間とは対照的に、ジョインはひとつの大きな、あるいはオープンなプラットフォームとして構想されていました。ジョインという名前が示すように、ジョインを中心としてあらゆる活動や作業が行われ、作業内容や個々のニーズに合わせて、スクリーンや小物入れなどの取り付けや取り外しができる柔軟性があります。

参考にした過去の例などはありましたか?

EB:あえて挙げるとしたら、1968年にロバート・プロブストとジョージ・ネルソンが開発した「アクション オフィス 2」でしょうか。このオフィス家具システムは、働く人の立場と視点から、日々のオフィスの喧騒の中でプライバシーを守り個人作業を可能にするものとして作られています。つまり、働く環境にはパブリックスペースと同時にプライベートスペースが必要であるということです。 プライベートな空間については、「アルコ―ヴ ソファ」を使えば、オープンな空間に隠れ家のような個人的な空間を作り出すことができます。広い共有テーブル上でもまた、スクリーンなどの付属品を追加することで、プライバシーを守る小さなスペースを創設できます。

2000年代の初め、ロルフ・フェルバウム(現ヴィトラ名誉会長)は、オフィスのランドスケープを一から見直すようにあなた方に依頼しましたね。

EB:素晴らしい機会をいただきました。当時、ロルフ・フェルバウムは私たちに、若さを最大限に活かしなさいと助言をくれました。「あなた達は若い。経験も足りない。それを最大限に活用すべきです!世の中の人々が何を必要としているかなんて想像しない方が良い。若いあなた達にはきっとそれを理解できずに真似するだけになってしまうでしょう。自分自身に必要だと思うことを自分でやってみたらどうですか。その挑戦があなたのビジョンをより強く、普遍的なものにしてくれるでしょう。」そして、それはそのとおりでした!

ジョインがこんなに反響があったのはなぜだと思いますか?

EB: 私たちは1960年代、2000年代、今日も、オフィスが抱える課題に対して取り組んできました。それは、働く人自身がどこでどのように働くかを選べるオフィス家具やオフィスシステムをデザインするということです。私たちは働く人たちが自由であってほしいと思いました。デザイナーが働き方までを押し付けるべきではありませんが、デザインした家具やシステムがいかに空間全体に影響を及ぼすかを忘れてはいけません。つまり、ひとつの製品が、空間そのものだけでなく、働き方までを変えるきっかけになり得るということです。優れたオフィスデザインは、仕事自体を良い方向に促進し、そうでないデザインは、そこで働く人々の働き方と仕事、ビジネスにまで、良くない影響を与える可能性があるのです。

頭の中にあったイメージを次々とスケッチしていくうちにコミューナルなテーブルの形ができあがっていったとお伺いしています。チームワークだけでなく個人使いも叶えるテーブル、つまり、あなたは従来のオフィスデスクを、みなで共有することを目的としたプラットフォームとして再考したのですね。

EB: ジョインをデザインしていたのは、ちょうどデスクトップのパソコンやペーパーワークからノートパソコンへの移行期で、キューブ型のブースやオフィスチェアが羅列していた空間から柔軟性のある空間へと変化していきました。私たちは、テーブルを多目的に使ってもらえるようにすることで、一カ所に留まるのではなくオフィス内を自由に動き回れるようにしたかったのです。

実際、多くの人が電話をしながら移動していますし、感情を動きに変換することで、集中力を高め、頭をクリアにするのを助けるという研究結果も出ていますね。さて、オフィスの話に戻しますと、自由度や柔軟性の向上には企業側もしっかりと考え直すことが求められます。

EB:私たちが描いているオフィスの風景は、あらかじめルールや行動が定義されたマニュアルに従うことを義務付けるのではなく、ユーザーに主導権を与えることを目的としています。このような働き方によって、人々はより自立し、自ら意思決定をすることが求められ、企業側には従業員に対する大きな信頼が求められます。しかし、デザインされたオフィス空間や家具を活用することで、個人としても集団としてもより良い仕事ができるようになることを考えれば、その価値は明らかです。

それから約20 年を経て、コルク、リサイクルレザー、リサイクルプラスチックなど、環境に配慮した素材にアップデートしたジョイン2が登場しました。

EB:ジョインのコンセプト自体はまったく変わっていません。しかし、20年の経験に基づき、構造や素材、サイズを見直しアップデートしました。脚の数も少なくなりましたし、ケーブル周りもすっきりとコンパクトに、組み立てと分解もより簡単にできるよう改良しました。ジョインはいつでも空間と使用する人の目的や希望に適応するプラットホームであり、あらゆる用途や目的に合わせた使い方が可能なオフィステーブルシステムです。.20年前、ジョインは先鋭的な製品でした。現在はどうでしょうか?

そうですね…成熟した、と言えます。ジョインのもっとも優れた点のひとつは、何物にも定義されないことです。マネージャー用、秘書用、はたまた幹部の大規模な会議用など、用途も目的も限定しませんし、指定しません。加えて場所や環境も選びません。オフィスだけでなく学校、図書館、研究室、銀行や建築事務所、どこでも使えます。ジョインはクリエイティブな活動のために広がる無限の地平線です。ジョイン誕生から20年の節目のアップデートは単なる再編集ではありません。ジョインは、時代を反映し続ける製品です。


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Vitra Magazine / Publication Date: 5.6.2023
Author: Anniina Koivu
Images: © Vitra