発見と喜びの場所 二俣公一さんインタビュー

「デザインと建築の聖地」とも称される「ヴィトラ キャンパス」。スイス、フランス、ドイツの国境ヴァイル・アム・ラインに位置する広大な敷地には、世界の著名な建築家が手掛けた建築物が集まり、それぞれの用途で実際に使われています。

家具メーカーを超えた文化的プロジェクトとしてのヴィトラを象徴するヴィトラキャンパスは、ヴィトラのスタッフだけでなく、地元の住民が気軽に集える場所であるとともに、訪れる人々に多大なインスピレーションを与える場所でもあります。

福岡と東京を拠点に、日本国内外でインテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで多岐に渡るデザインを手がける空間・プロダクトデザイナーの二俣公一さん。2022年6月にヴィトラキャンパスを訪れた二俣公一さんにお話をうかがいました。

ヴィトラキャンパスという場所があることを知ったきっかけは何でしたか?それはいつ頃でしょうか?

きっかけは、スイスを拠点とする建築事務所であるヘルツオーク&ド・ムーロンでした。今では有名建築を多数手がけている彼らですが、初期作品にはコンパクトな住宅建築などが多く、学生時代に彼らが手掛けた個人住宅や集合住宅を建築雑誌で見て、毎回新鮮な驚きを感じていましたし、少なからず影響を受けました。

ヘルツオーク&ド・ムーロンやエドゥアルド・ソウト・デ・モウラのような、少しマニアックでややニッチな視点をもちつつも、メジャーな建築作品も手掛ける建築家に当時は惹かれていましたし、今でも素晴らしい建築を作られていると思います。ヴィトラハウスを見て、その中に足を踏み入れた時は、「やっと実物を見ることができた」という気持ちになりました。

ではやはり、ヴィトラキャンパスを訪れて、もっとも心に残った建築はヴィトラハウスですか?

ヴィトラハウスも良かったのですが、あえて一番を選ぶとしたらフランク・ゲーリーですね。ヘルツオーク&ド・ムーロンのヴィトラハウスは、箱を積んでいくシステム的な外観に対して、中の構造は複雑に重なり合うその反比例がおもしろいと思いました。これに対して、フランク・ゲーリーの「ヴィトラ デザイン ミュージアム」は、小さい規模の建築物の中に、入り組んだ動線とストーリーがあり、どの場所に立ってどの場所から見ても発見がありました。


さまざまな角度からあらゆる風景が見えてくるので、同じく建築に携わっている身からも、面白さと秀逸さを感じました。大きすぎない規模感ももちょうど良いのでしょうね。クイックに動くことができる規模の空間で、ぐわっと構造や風景が迫ってくる、それがみるみる変わっていく、あそこまでやりきれるのはさすがだなと感動しました。

ヴィトラハウスが現在の形になるきっかけもフランク・ゲーリーだったそうです。ヴィトラの名誉会長であるロルフ・フェルバウムはかつてインタビューの中でこう語っています。「フランク・ゲーリーによるヴィトラデザインミュージアムの設立により、ニコラス・グリムショウが立案したオリジナルプランはいったん終焉を迎えました。統一された企業アイデンティティを表現する場ではなく、大がかりなコラージュを創り出すというプランへ。つまり、さまざまな建築家による、個性豊かな建築が集まる『建築の聖地』の実現です。」

なるほど(笑)。なんとなく気持ちがわかるような気がします。フランク・ゲーリーのヴィトラデザインミュージアムの中で、私が感じたような発見と感動、それをロルフ・フェルバウムさんも感じていたということでしょうか。その時の発見の感覚をずっと求めて、ヴィトラキャンパスには建築物が増えていく。そのきっかけがフランク・ゲーリーだったのかも。これは個人的な想像でしかないのですが、それ程に、フランク・ゲーリーの建物には衝撃を受けました。

もうひとつ、ヴィトラキャンパスの訪問で強く記憶に残っているのは、家具の所蔵品の数、規模、その幅です。ヘルツオーク&ド・ムーロンが手掛けた「ヴィトラ シャウデポ」の中で展示されているものたちはその一部ですが、いわゆるヴィンテージとよばれる希少なものから、現代のデザイナーが手掛けたコンテンポラリーなものまで幅広く所蔵されていることに驚きました。また、その管理も、すごくしっかりしていて。家具に対して、コレクションに対して、それを資料として保管しつつ、次の世代やものづくりに活かすことまでの、ある意味「おたく」的な(笑)、強い情熱を感じました。

 あなたにとってのヴィトラキャンパスを一言で表現するとしたら?
「建築とデザインの聖地」と言われていますが、もっともっと楽しい場所ですね。ディズニーランドのような。いや、その倍ぐらい、いつ訪れても楽しい、わくわくする発見や楽しさ喜びが沸き上がる場所だと思います。

二俣 公一
空間・プロダクトデザイナー。福岡と東京を拠点に、空間デザインを軸とする「ケース・リアル(CASE-REAL)」と、プロダクトデザインに特化する「二俣スタジオ(KOICHI FUTATSUMATA STUDIO)」主宰。現在、神戸芸術工科大学にて客員教授を務める。主な空間作品に、「DDD HOTEL」(東京・馬喰町)の全体計画や山陰海岸国立公園にある「玄武洞公園」(兵庫・豊岡)のランドスケープ計画のほか、ボタニカルケアブランド「イソップ」との恊働や「アーツ&サイエンス福岡」「ISSEY MIYAKE 成都SKP」などの店舗設計、「深大寺の家」(東京)や「海のレストラン」(香川)などの建築設計など。主なプロダクト作品に、フィンランドのインテリアブランドArtekのための「KIULU BENCH」、天童木工の創立80周年記念でリリースされたチェア「SAND」、アントワープのデザインレーベル”valerie_objects”のためのカトラリーセットなど。また、日本のデザインレーベルE&Yとはこの20年に渡り数々のコレクションを発表してきた他、EK JAPANのためにデザインした真空管アンプ「22」はサンフランシスコ近代美術館の永久所蔵品となっている。